現在地を知る
憧れの畦地梅太郎さん挿画の「黒部の山賊」
戦後間もない昭和20年代が舞台の北アルプスの最奥地、秘境と呼ばれる三俣蓮華、黒部渓谷が舞台のお話。
当時恐れられていた山賊達と、著者である伊藤正一氏が山小屋で寝食を共にしながら山で巻き起こる出来事がリアルにかつ、どこか愛嬌ある表現で描かれいる。
当時資材が乏しい状況で、山の道具や登山道も今ほど発達していない中、山奥でどうやって暮らしていたのかその様子が垣間見れる。また山小屋に駆け込んでくる登山者たちをどうサポートしていたかその様子も描かれており興味深かった。
100kgを超える荷物を担いでワラジを履いて運び上げていた歩荷のことを知り驚く。また山賊といわれた人たちは熊やカモシカ、鹿、ウサギ・・川では岩魚を吊り上げながらお腹を満たしていたようだ。
厳しい天候の日も多く、吹雪や霧の中で時には科学では解明できないような不思議な出来事が起こったりする。
やがて伊藤氏が考案した伊藤新道が実現することで建築資材の運搬が飛躍的に向上し、三俣、雲ノ平の小屋が完成した。ヘリでの輸送も始まっていく。特別な地位やずば抜けた運動能力がなくても、いま安全に登山が楽しめるのは、こうして山を愛する方々が長年尽力されてきた功績なんだなと感謝の気持ちが湧いてくる。
一方で科学や動物保護の法整備が進んで行く中で、次第に薄れ消えてしまった文化や魅力も多くあるんだろうな。
”雲ノ平”の地名が時折出てきて、子供の頃に訪れたときの思い出が懐かしく蘇った。とても素敵なところだった。